*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!

 すべてを話し終え俯いていた顔を上げると、無言で遠くに視線を遣る修平さんの顔があった。 
 その顔は私が知っている彼のものとは全然違う。
 感情というものが見当たらないくらい、冴え冴えとした瞳は細く据えられて口元は真一文字に結ばれている。
 黙ったままの彼からは、怖ろしいほどの冷気が漂っていて、思わず背中にゾクッと悪寒が走った。

 「しゅ、…修平さん……?」

 彼が全く見知らぬ人に見えた気がして恐る恐る声を掛けると、次の瞬間、金縛りが解けとかのように彼の冷たい空気が解け、一瞬にしていつもの彼の顔に戻った。

 「杏奈……ゴメンな。」

 「??」

 彼が何を誤っているのか分からず、小首を傾げる。
 すると、彼は唐突に話しはじめた。

 「『TAKI建設』で仕事をするのは小さな頃からの夢でもあったし、目標でもあったからとても楽しかった。けど入社してすぐに、俺が今まで誇らしく思っていた『瀧沢』という名前は、重いものでもあるということに気付かされたんだ。」

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