*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!

 じっと彼を見つめていると、彼は私の背中をそっと抱き寄せ、ふぅっと息を吐く。
 眉を下げて困ったように微笑む修平さんの瞳が甘く光った。

 「好きだよ、杏奈。」

 耳元に吐息が掛かると同時に聞こえた言葉に、体が震えた。

 その震えは体の外側から内側まで、まるで浸透するようにじわじわと伝わってきて、その振動が心の奥底の一番柔らかな場所に到達した時、心臓の奥の奥が苦しいくらいに甘く痺れた。

 「俺の素性を杏奈に話さなかったのは、杏奈には俺自身を見ていて欲しかったから。なんの付属もない、ただの『瀧沢修平』を好きでいて欲しかったんだ。」

 「杏奈と暮らし始めてからは毎日が楽しくて、杏奈とアンジュが待つ家に早く帰りたくて、集中力が上がったせいか効率よく仕事が終わるようになったんだ。家に帰って杏奈の笑顔を見るだけでいつも仕事の疲れなんてすぐに忘れてしまうし。」

 彼の瞳は真っ直ぐに私を見つめている。

 「付き合い始めたばかりで戸惑うことも多いだろうし、杏奈の仕事も忙しかったから、俺の会社でのことはもう少し落ち着いたら話そうと思っていたんだ。結局すぐに話さなかったせいで、杏奈に嫌な思いをさせてしまって、本当にゴメン。」

 綺麗な顔を苦しそうに歪めて謝る修平さんに、私はかぶりを振った。
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