*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
(もしかして私に気付いた!?)
私が立っている場所は会場でも後ろ側の方で、壇上からは随分と距離がある。
おまけにこの会場には溢れるほどの人がいて、その中に紛れている私に彼が気付くなんて思えない。
それに何より、私がここに来ていることを彼は知らないのだ。
修平さんに黙って来てしまった手前、後ろめたい気持ちになる私は、壇上からそっと視線を逸らした。
けれど、意識は彼に捕まったまま。
『ただ今ご紹介にあずかりましたTAKI建設の瀧沢でございます。』
マイクを通して修平さんの声が耳に届く。
さっき一瞬だけ見せた驚いた表情なんて嘘のような、その堂々とした声に、ざわついていた会場の雰囲気が彼に集中していく。
『誠に僭越(せんえつ)ではございますが、施工者を代表いたしまして、一言ごあいさつを申し上げます。』
修平さんのスピーチが耳に入ってくる。
大勢の人の前に立っているというのに、全く緊張を感じさせず淀みなく語るその姿は堂々たるもので、将来会社を背負って立つに相応しい風格すら漂わせている。
私と一緒にいる時の彼の雰囲気とは違うけど、堂々と真摯に仕事のことを語る彼もとても素敵だ。
ここにいる多くの女性たちと同じように、私もその姿に魅了されていた。
(こんな素敵な人が、私の恋人……)
スピーチを終えた修平さんに大きな拍手が送られる中、私は呆然とそんなことを考えていた。
私の心臓が狂おしいくらいに高鳴る。
「信じられない」という気持ちと、叫び出したいくらいの誇らしさの間を行ったり来たり忙しい。
拍手の中、来客に向かって頭を下げた修平さんが顔を上げた、その時、
視線がぶつかりあった。