*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
掴まれていた手首が急に楽になった。
恐る恐る瞼を持ち上げると、目の前に大きな背中がある。
上質な仕立ての背広の肩はがっしりと逞しい。
セットされたダークブラウの髪が、本当は柔らかいことを私は知っている。
彼はゆっくりと振り返ると、綺麗なアーモンドアイを少し細めて眉を下げた。
「大丈夫?杏奈。」
柔らかなテノールが耳に入った瞬間、私の瞳から涙が溢れ出した。
修平さんは片手で男性の右手首を掴んでいて、まるで私をその大きな背中で隠すように私と男性の間にしゃがみこんでいた。
「は、離せっ…」
男性は、さっきよりは声は小さいけれど怒りは収まるようすもなく、掴まれた手を振り払うと、今度は修平さんを睨みつけた。
「この女に大事なスーツを汚されたんだっ…一体どうしてくれるんだ!」
修平さんは数秒男性を見つめていたが、黙ったまま私の方を振り返ると、床に座り込んでいた私の体をそっと優しく立ち上がらせてくれた。
その瞳は私を見つめるいつもの優しげなもので、強張っていた体から少しだけ力が抜ける。
修平さんの指先が、私の頬を撫でる。
彼は私の涙を優しく拭うと、小さく頷いてから改めて男性の方へ向き直った。