*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
下げていた頭を持ち上げてアーモンドアイを嬉しげに細めた修平さんは、私の手を取ってスッと立ち上がった。
繋がれた手に引き上げられて私も立ち上がる。するともう一方の手も取られ、そのまま向かい合った。
しゃがんでいた時とは全然違う、上から見下ろす甘い瞳に、勝手に心臓が跳ねる。
「家に帰ったら、思いっきり杏奈に触れていいんだよね?」
台詞にニコニコとご機嫌な笑顔は、ついさっきまで項垂れていた人とは思えない。
思わず度肝を抜かれた私は目を大きく見開いた。
「ハッキリ言って俺のやきもちは完全に治まったわけじゃないんだ。帰ったら改めてじっくりと杏奈を独占するよ。いい??」
満面の笑みで吐かれた台詞に、返す言葉も出ない。
私の無言を肯定と捕えたのか、修平さんは「じゃ、帰ろう」と言うと、私の手を引いてドアへ向かおうとする。
私はここでやっと(呆けている場合ではない)と、慌てて口を開いた。
「ちょ、ちょっと待って!おっ、お仕事!お仕事あるよね?」
「俺の出番はさっきので済んだよ。」
「いや、でもきっと会場の色んな人とのご挨拶とか、あとは部下の方への指示とか、」
「仕事関係の挨拶は始まる前にしたし、それに社長が来てるなら俺の出番はないから大丈夫。部下への業務の指示はあらかじめきちんと伝えてあるし、皆優秀だから俺がいなくても問題ない。」
「で、でもっ……」
「ちゃんと葵には連絡しておくから大丈夫。」
「………」
有無を言わせぬ彼の雰囲気に、私はこれ以上の追及を止めた。
灯りを点けていない小部屋の薄暗い部屋を、手を引かれてドアの前まで行くと、ドアノブに手を掛けた修平さんはそれを引く前に私の方へ振り向いた。
「家に帰ったら、覚悟しておいて、杏奈。」
そう言ってから素早く私の唇をかすめるように奪うと返事など待たずにドアを開く。
部屋の外の明かりが眩しくて、背けた顔が真っ赤だったことが誰にも見られずに済んだのは、目の前の廊下に誰もいなかったお陰だった。