*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!

 まるで彼の視線に縫い止められたみたいに、私は身じろぎ一つせず息すら止めてしまう。
 それに気付いた修ちゃんは、ふっと力を抜くように息を吐いたあと、硬い瞳を緩めた。

 つられてホッと肩の力を抜いた私の視界を、何か白いものが覆った。
 
 「えっ、あ…」

 私の目元に当てられた白いものが、その感触からハンカチなのだと分かる。
 涙でグシャグシャになった私の顔を、修ちゃんは手に持ったハンカチでぬぐってくれているのだと、気が付いた。

 子どもみたいに泣きじゃくったのは自分のくせに、好きな人に子ども扱いされるのは嬉しくない。

 「あ、ありがと。自分で出来るから。」

 そう言って頬に当てられているハンカチに手を添えると、何も言わず彼の手が離れて行く。

 借りたハンカチで目元や頬に着いた涙を拭くと、スッキリした。
 スッキリしたら今度は号泣したことが恥ずかしくなって、照れ隠しに明るい声で礼を言う。

 「ありがと。ごめんね、ハンカチ汚しちゃって、ちゃんと洗って……」

 そこまで行って手に持ったハンカチに視線を移した。

 白いハンカチに縫い付けられた四葉のクローバーと『A』。

 不揃いなその緑の縫い目に、私は大きく息を呑んだ。

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