*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!


 図書館司書として働き始めて二週間くらい経った頃、私は仕事帰りにいつもの河川敷に寄っていた。

 大好きな桜は散ってしまったけれど、青葉を繁らせた木々と流れていく川の音が心地良くて、すっかりこの場所はお気に入りの一つとなっていた。

 その日も河川敷に降りて、傾きかけた夕陽が川面を照らすのを眺めながらゆっくりと自転車を押して歩いていた。

 (あれ?男の人がいる……)

 河川敷に造られた遊歩道には、途中途中ベンチが置いてあったりして、散歩中のご老人や飼い犬を連れた人が休憩していることがよくあるけれど、その人はベンチの横に立ったまま、微動だにせずに川の方を真っ直ぐに睨んでいた。

 異性が得意ではない私は、年の近い男性の前を横切るだけで緊張してしまう。得意ではないから、返って気になるのだ。

 その男性のところまではまだ数十メートルはある。引き返すなら今だ。
 けれど、河川敷から土手の上まで上り下りする道はここから少し先に有って、さっき降りてきた道は随分と後ろになっている。

 (引き返すほどじゃないし……うん、そっと前を通れば大丈夫。)

 いざとなったら自転車を漕いで逃げたら大丈夫、と痴漢にでもあった時みたいな対処法を考えながら、私はゆっくりと足を進めたのだ。

 あと数メートル。そこまで近づいた時、私は見てしまった。
 背の高いその男性の頬を、キラキラとしたものが伝って落ちるのを。

 宝石みたいに輝く丸い粒から目が離せない。
 心を奪われるってこんなことを言うのか、と後になって思った。

 それは夕陽を閉じ込めたみたいに綺麗だった。





< 236 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop