*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
こじんまりした和食のお店の暖簾をくぐると、見知った顔と目が合った。
「あら、杏ちゃん。」
「千紗子さんっ!!」
そこにいたのは、職場で私のことを指導してくれている先輩の雨宮千沙子(あまみや ちさこ)さんだった。
背中の中ほどまであるサラサラの黒髪を揺らして、私に手を振っている。すると、同じテーブルに座っていた男性がこちらの方を振り向いた。
「こんにちは。」
細めのシルバーフレームの眼鏡の奥の瞳を細めて私たちに会釈をしたのは、千紗子さんの旦那様である雨宮一彰(あまみや かずあき)さん。確か千紗子さんより五個ほど年上だったはず。
こうして向かい合うのは初めてなので、私は一瞬にして緊張した。
というのも、彼は数年前まで私の勤める『市立中央図書館』で働いていて、今は分館の館長に就いている。
『館長』という役職だけでも緊張してしまうのに、更に私の緊張を煽るのは、彼がすごく整った容姿を持っているからだ。
座っている今でも分かるほど背が高く足も長い。男性なのに顔も小さく、二重で切れ長の瞳は彼を知的かつクールに見せている。
「は、はっはじめまして。千紗子さんには、い、いつもお世話になっております。」
勢いよく頭を下げる。おもいっきりどもってしまったのが恥ずかしくて、下げた顔がカーッと赤くなった。
「こちらこそ、千紗子がいつもお世話になってます。それに、『はじめまして』じゃないよね、宮野杏奈さん。」
「えっ!?」
「千紗子からよく話を聞いているし、本館に行った時に見かけて、挨拶くらいは交わしたでしょ?」
「お、おぼえて…」
「“可愛い妹”のことだからね。」
そう言って雨宮さんが微笑んだ時、私の後ろに黙って立っていた修平さんの手がピクリと震えた。