*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
「あの時は本当に大変だったわよね、修平くん。」

 「ああ、まあね。」

 口を付けたコーヒーカップをソーサーに戻しながら、関心なさげに返事をする修平さんに、遥香さんが「は~」と溜め息をつく。

 「大したことなかったみたいな顔してるけど、あの時は直接関係のない私までどうなることかとヒヤヒヤしたのに。」

 「そんなに大変なことだったんですか?」

 あの時の詳細を聞いていなかった私は、それがどんなに大変なことか想像もつかない。

 「そうなの。簡単に言うと、資材部の後輩の発注ミスだったの。その翌週着工の現場の資材が、予定していたものと違っていてね。しかも大口の建設現場だったからかなりの量だったみたいで。今から発注しても間に合わない、って現場はパニックになるし、その仕事を取ってきた営業部とも一時は険悪ムードだったし。もし着工が遅れたらとんでもない額の損失になるところだったし、取引先の信頼は一度失ったら、その損失は金額では計算できないわ。」

 「本当に大変だったんですね…知りませんでした。」

 自分がそのミスした後輩だったとしたら、と思うと背筋が凍るような気がした。
 それと同時に、ふっと一つの疑問が沸く。

 「あれ?修平さんは『設計室長』でしたよね…資材部と営業部とは違うと思うのですが、そういう時は全員フル動員なんですか?」

 私が何気なく口にした疑問に、目の前の遥香さんが「そっか。」と何かに気付いたように口を開いた。

 「修平くんは設計室長なんだけど、今回はどちらかというと、こうけ」

 「たまたま別口で当てがあったから資材手配を手伝っただけだよ。」

 遥香さんの言葉に被せるように、修平さんがおもむろに話し出す。

 「あの時は資材部で手が足りなかったら助っ人に入ったんだ。設計室で抱えている大きな案件が片付いたばかりで、こっちは手が空いていたからね。」

 「それだけじゃないでしょ?あれは修平くんが動いてくれたから何とか事なきを得たんだし。」

 「それは買い被りすぎだよ。別に俺がいなくても、ちゃんと資材部の奴らがちゃんとやっただろ。」

 平然とした顔でそういった修平さんが残りのコーヒーに口を付ける。
 その彼を、遥香さんが黙ったままじっと見つめている。

 なんとなく微妙な空気が修平さんと遥香さんの間に流れる。

 「ま、無事に片付いたからいいんじゃないか?俺の出番がなくてよかったわ。」

 あはは、と大きな口で豪快に笑った健太郎さんが、その空気を緩ませた。
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