＊続＊恩返しは溺甘同居で!?～長期休暇にご用心！

「杏奈、紹介してもらってもいい？」

　心なしか低い声で、彼がそう言う。

　「えっと、…」

　なにか冷たい空気が彼から出ている気がして、私は思わず言い澱んだ。

　「お久しぶりです、瀧沢さん。図書館員の雨宮千紗子です。」

　私が口を開く前に、千紗子さんが自ら名乗る。

　「貴女は…」

　「あの時は、杏ちゃんを助けて頂いてありがとうございました。無理やりタクシーに押し込んでしまってごめんなさいね。」

　ニコッと笑った彼女に、修平さんは「ああっ、あの時の！」と声を上げた。

　「そして、向かいは夫の一彰(かずあき)です。」

　千紗子さんがそう言った途端、修平さんの力がすっと抜けたのを感じた。そんな彼を見上げていると、視界の端で千紗子さんが「くすっ」と笑うのが映った。

　「瀧沢修平です。その節は大変お世話になりました。」

　「いえ、こちらこそ。せっかくですから、ご一緒にいかがですか？このあとこのお店とても混むんです。せっかく二人で来られたのに、お邪魔虫じゃなければ。」

　千紗子さんはそう言って、微笑みながら私たち二人を見ている。
　その言葉に顔を見合わせた私と修平さんは一度頷き合って、そして、修平さんが「俺たちの方こそ、お邪魔虫にならなければ、是非。」と言って頭を下げた。
　
　「良かった」と千紗子さんが微笑むのと、雨宮さんが千紗子さんの隣に移動するのは、ほぼ同時で、夫婦の呼吸を見せつけられた気がする。