*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!

 四人掛けのテーブルに、千紗子さん夫婦と向かい合うように座る。座る直前に、修平さんが私が持っている仕事用の鞄をさりげなく受け取って、足元の荷物籠に入れてくれた。
 目の前に座っている千紗子さんは、ずっと微笑んで私達のことを見ていた。

 「杏ちゃんは今日は遅番だったわよね?」

 私たち二人が注文を終えると、千紗子さんは私にそう聞いた。

 「はい。今日は昨日までの三連休と違って、平日なので、いつもの時間に出勤しようと思ってるんですけど、大丈夫だったでしょうか?」

 「連休中は大変だったものね…、今日くらいゆっくり出勤してもいいと思うわよ。」

 四月末からの大型連休に挟まれた今日と明日は、飛び石で平日である。修平さんはその飛び石に有休を入れて、九連休中だけど、世の中的には今日は出勤日や登校日である。
 昨日までの三連休は来館者が多くて、図書館員の私たちはてんてこ舞いだった。人様が休んでいる時が繁忙期の職種の辛いところではある。

 「千紗子さんは今日は公休日ですよね?雨宮館長も今日はお休みですか?」

 「『館長』は今は付けなくていいよ。今はプライベートだから。」

 斜め前の雨宮さんが、困ったようにそう言うので、お言葉に甘えることにする。

 「一彰さんも、今日はお休みなの。久々にお休みが一緒になったから、今日はここにランチに来たのよ。」

 そう語る千紗子さんが、嬉しそうにはにかむ。

 いつも私にとって『綺麗なお姉さん』の先輩が、目の前で少女みたいな笑顔を浮かべている。

 (千紗子さん、幸せそう…。)

 見ているこっちが嬉しくなってきて、つられてニコニコとしていると、隣の修平さんが口を開いた。

 「雨宮さんも図書館の方なんですか?」

 「ああ、そうだよ。申し遅れてすまない。二駅先の市立分館で館長を勤めている雨宮一彰です。」

 雨宮さんは胸元から名刺を取り出して、修平さんに渡した。

 「ありがとうございます。こちらこそ、自己紹介が遅くなってしまって、申し訳ありません。杏奈さんとお付き合いしています、瀧沢修平、と言います。」

 修平さんも自分の名刺を雨宮さんに渡している。

 「『株式会社TAKI建設 設計室長 瀧沢修平』…さん。」

 雨宮さんが修平さんの名刺を読み上げて、顔を上げる。

 「TAKI建設の、瀧沢さん…」

 「はい。」

 二人の間に少しの沈黙が落ちた。
 雨宮さんの手元を覗き込んだ千紗子さんが、「それって、」と口にした時、私たちのランチが運ばれて来た。
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