*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
翌朝、私が起きてリビングに向かうと、既に出勤スタイルに身を包んだ修平さんがいた。
「修平さんっ!」
「おはよう、杏奈。ずいぶん早いね。もう体調はいいの?」
手に持っていたジャケットを白いシャツの上に羽織りながら、修平さんが訊く。
「うん…大丈夫。」
まるで一昨晩のことなどなかったかのような彼の態度に、私は逆にたじろいだ。
(怒っては、…なさそう。)
彼の態度に怒りの感情は見えず、あの時みたいに辛そうな寂しそうな表情もしていない。
何事も無かったかのように平然としている修平さんにホッとしつつも、なぜだか少しだけ違和感を感じてしまう。
あの時のことは夢だったような気がして、口にするのを躊躇する。
けれど、あれは確かにあったことで、私は彼に謝らなければいけないと心に誓ったはずだ。
「修平さん、あのね…」
「ごめん、時間だ。もう出ないと。」
「えっ、もう行くの!?」
時間はまだ六時半にもなっていない。
修平さんはテーブルの脇に置いてある大き目のボストンバッグを掴むと、足早に私のところまでやってきた。
「急遽出張になって、これから関西までいかないとけないんだ。金曜の夜には帰るけど、遅くなるから夕飯は要らないし、杏奈は先に休んでて。」
サラサラと今日明日の予定を説明され、私が何かを尋ねる余地はない。
「……分かった。」
私が頷くと、彼はそのまま玄関へと向かうから、お見送りの為後ろから着いて行く。
目の前を歩く修平さんの背中は、手を伸ばせば触れられる距離にいるはずなのに、なぜだかとても遠く感じる。