*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
5. 素敵な先輩
「ねぇアンジュ。あなたのご主人さまは、今頃何してるのかな…」
いつもの河原をアンジュと歩きながらそう口にすると、半歩先を行く彼女が私の方を振り返った。そのまま何か物言いたげに私の顔をじっと見つめる。
「そうだよね、お仕事だよね。」
アンジュが何て言ってるか理解したわけではないけれど、なんとなくそう返す。
事実、木曜日の九時半を過ぎた今、出張中の彼が仕事中なのは分かりきったことだ。
修平さんが出張に行ってから三日目。
修平さんにきちんと謝り損ねたまま、彼が出張で不在になり、私はモヤモヤを抱えたまま昨日までの二日間を過ごしていた。
出張に出る日の朝、普段の彼の態度のようでそうでなかったみたいに、出張中の今も、毎日メッセージの遣り取りはしている。
でもその文面はごく短く、朝晩のどちらか一回だけだ。
メッセージの中身からとても忙しいことが窺えて、自然と私も無駄なメッセージは控えてしまう。
アンジュの様子を書き込むくらいで、後は必要最低限のことだけに留めていた。
本当はその日にあった面白い話ややってしまった失敗談を、いつものように彼に聞いて欲しかったけれど、忙しく働いている彼の邪魔になるような気がして、打ち込んだ文字を消しては書き直し、結局連絡事項のみの寂しい文章を送ってしまうのだ。
そんな風だから、もちろん電話なんて自分から出来るわけない。
とにかく彼の邪魔をせずに、大人しく帰りを待つことが私の仕事なのだと思うようにした。
「駅の向こうのブランジェリーに寄って帰ってもいい?」
アンジュがこちらを見上げて勢いよく尻尾を振る。
初夏の風が川面を撫でるのを見ながら、私たち二人は駅の向こう側へと足を向けた。