*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
「千紗子さんっ!」
カラカランとドアベルを鳴らして店を出た私が声を掛けると、体を屈ませてアンジュを撫でていたその女性(ひと)は、顔を上げこちらを見て目を丸くした後、優しげに微笑んだ。
「あら、杏ちゃん。」
「千紗子さんもパンを買いに?」
「ええ。ここのブランジュリーのパンが大好きなの。特にクロワッサンがね。杏ちゃんは買った?」
「はいっ!とっても美味しそうだったので買いました。」
「そっか、良かったわ。ここのクロワッサンはいつもすぐに売り切れちゃうのよ。」
「そうだったんですね。買えてよかったぁ~!」
胸に手を当てて撫で下ろす。目の前ではアンジュが嬉しそうに尻尾を振っていた。
「お待たせ、アンジュ。待っててくれてありがとね。」
そう言って彼女の頭を撫でると、私の手に額を押し付けるようにして甘えてくる。
「あら、このわんちゃんって、杏ちゃんちの子なの?じっと大人しく待ってて、すごく賢い子ね。」
目を丸くした千紗子さんにそう訊かれ、私は改めてアンジュの紹介をした。
「修平さんが飼ってる犬で、名前はアンジュです。アンジュ、私がお世話になってる先輩の、雨宮千紗子さんだよ。」
「よろしくね、アンジュちゃん。」
千紗子さんがしゃがんでアンジュの頭を撫でると、アンジュは尻尾を振って彼女の手に鼻をすり寄せ、クンクンと匂いを嗅いだ後、その手をペロリと一舐めした。
「アンジュも千紗子さんによろしくって言ってます。」
「そうなの?嬉しいわ。杏ちゃん、良く分かるわね?」
「えぇっと、なんとなく、…ですけど。」
「ふふふっ、すっかり家族なのね。安心したわ。」
口元に手を当てて微笑む千紗子さんは、何かいつもの何倍も柔らかくまろやかな空気を纏っていて、彼女の周りだけ小さな星屑を刷いたようにキラキラと輝いて見える。
そのまばゆさに私は思わず目をしばたかせた。