クールな御曹司の甘すぎる独占愛

三時のおやつと言えば、ホットケーキやプリンなどではなく父の作ったくずきりやくさ団子。生クリームよりも口にする機会は格段に多かった。

将来は父のような和菓子職人になる。自然な流れでそう思っていた。ところが父は《一度は社会も見ておくべきだ》と、大学卒業を控えた奈々に一般企業への就職を勧めた。

幼い頃から両親の意見を素直に受け入れてきた奈々は、父がそう言うのならと、国内では中堅クラスの不動産会社で働き始めた。
仕事はそれなりに忙しかったが、合間を縫って和菓子職人としての経験も積みながら二年半が過ぎたときに転機は訪れた。

奈々の母が病気で急逝したのだ。いよいよ父に光風堂を手伝ってほしいと頼まれ、幼い頃からの夢だった和菓子の世界に飛び込んだ。

そうして少しずつ腕を上げていた矢先、今度は父が病に倒れ、あっけなく天に召された。母を亡くし、奈々が職人としての一歩を踏み出してから一年しか経っていなかった。

遺された光風堂と二十七歳の奈々。
悲しみに暮れている時間はなかった。

両親が大切にしてきた光風堂を失くすわけにはいかない。失くしたくない。奈々はそんな想いだけで、この一年を過ごしてきた。どんな毎日だったかもはっきり思い出せないほど、がむしゃらだった。それでも頑張れたのは、和菓子が大好きだから。とにかく店を潰したくない一心だった。

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