クールな御曹司の甘すぎる独占愛
これまで水瀬は主にブランド戦略に力を注ぎ、クライアント企業の業界における競争力を高めてきた。
中小企業から大企業まで幅広く担当してきたが、ロスにいたときにはアメリカに本社を置く靴のブランドを業界トップクラスに導いた。
父親が商社勤めで海外勤務が長く、十五歳まで中東やアメリカで暮らしていたため、日本での生活のほうが短いと言える。現在も両親はカナダだ。
「水瀬さん、お帰りですか?」
デスクのパソコンをシャットダウンし、備品類を片づけている水瀬に気づいた柳が自分の席から立ち上がる。
東京へ来てから、三つ年下の柳はなにかにつけて水瀬と行動をともにし、兄のように慕うようになった。子犬並みに人懐こい柳は、たった二ヶ月ですっかり水瀬の懐に入り込みかわいがられている。
「ああ。キリのいいところだしね。柳もあまり遅くならないうちにあがれよ」
部署内には、ほかにまだ数名残っている者がいた。
「あ、もしかして光風堂へ行くんじゃないですか?」