クールな御曹司の甘すぎる独占愛
縮まる距離に戸惑う心
翌日、奈々はいつもより一時間早く自宅マンションを出た。水瀬に提案してもらった“和菓子の試食”を清人に相談するためだった。
シャワーを浴びてもバスタブにゆっくりと浸かっても、水瀬に抱きしめられた感触が身体から消えず、昨夜の奈々はほとんど眠れていない。
朝までベッドの上で寝返りを打っては起き上がり、時計で時間の確認。アドレナリンが過剰に分泌されたのか、眠気のねの字もやってこなかった。そのくらい水瀬の甘い余韻の威力は大きかったのだ。
あれはスキンシップのひとつ。海外生活の長い水瀬なら、それくらいは当たり前。おやすみの挨拶の一環だろう。
そうやって奈々は自分を懸命に納得させた。
「おはようございます」
午前八時半。奈々がレジ奥にある厨房のスイングドアを開けると、清人は虚を突かれたように目を丸くした。
「奈々さん、おはようございます。今朝はずいぶん早いですね」
「清人さんに相談したいことがあるんです」
「……私に相談?」
清人はあんを作っていた手を止め、奈々を真っすぐ見つめた。