クールな御曹司の甘すぎる独占愛
それはこれまでやってこなかった。無理強いはよくないと謙虚になるばかり、商売で大切なアピールをしないのは致命的だろう。
せっかく水瀬が相談に乗ってくれるのだ。自分でできることは、率先してやっていこう。
その女性客はそれを見て、「あら、とっても綺麗ね」と目を細めた。
それからは何組かにひと組の割合で、コーヒーや軽食をとったあとに和菓子を購入するお客が現れた。しかし期待したほどの売れ行きではない。追加して作った分もあったため、閉店したときにはいつもより若干残数が少ない程度だった。
「思うようにはなかなかいかないですね」
明美がガッカリしながらショーケースから残った和菓子を取り出す。
「まだ初日だから仕方がないわ」
そう明るく返すが、残念な気持ちは奈々も同じだ。完売とまではいかなくても、もう少し売れるだろうと期待していた部分はある。
だが、すぐに成果が出なくて当然なのかもしれない。明美に言ったように、まだ今日が初日。地道に続けていくことで、緩やかに売上が伸びていくのを期待しよう。
奈々はそう思い直して、店の片づけに取りかかったのだった。