子爵は新妻を独り占めしたい
「親戚や友人に頭を下げて何とか工面しているんだけど、なかなか思うように金が集まらなくて…」

田辺はどうしたらいいんだ…と、泣きながら呟いていた。

(役に立ちたい)

泣いている彼のその姿に紗綾は思った。

家族になる田辺と彼の兄のために役に立ちたい。

両親を亡くした2人は力をあわせて、波乱万丈の人生を生きてきたのだ。

もうこれ以上、彼らには不幸になって欲しくない。

紗綾は意を決すると、口を開いた。

「私が何とかします」

そう言った紗綾に、田辺は驚いたと言うように視線を向けてきた。

「800万円を出せばそれでいいと、相手の方は言っているんですよね?」

「言っているけど、でも…」

「私が800万円を用意します」

さえぎるように宣言した紗綾に、
「ありがとう…ありがとう、紗綾…」

田辺は泣きながら、何度もお礼を言ったのだった。
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