子爵は新妻を独り占めしたい
気がついた時、紗綾は断崖絶壁のうえに立っていた。

冷たい風が胸元までの黒い髪を揺らしている。

下に見ると、そこは海だった。

「――ここから飛び降りたら、私は死ぬのかな…?」

紗綾は呟いた。

不思議と、死ぬことに抵抗感もなければ恐怖もなかった。

何もかもを失ったから怖くないのかも知れない。

上を見ると、黒い空に銀色の月が浮かんでいたのだった。

「――私は、天国に行くのかな…?

それとも、地獄に行くのかな…?」

紗綾は呟くと、深呼吸をした。

この世界には自分を必要としてくれる人は誰もいない。

ならば…望み通り、自分はこの世界から消えることにしよう。

そう決意すると、紗綾はスカートのポケットからスマートフォンを取り出した。
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