子爵は新妻を独り占めしたい
この世界から消える準備は、もうできた。

自分を必要としてくれる家族も恋人もいない。

自分を引き止めてくれる仕事も夢もない。

例え自分が死んだとしても、悲しんでくれる人は誰もいないだろう。

紗綾は前を見つめると、深呼吸をした。

「――さよなら、世界…」

そう呟いた後、紗綾は海に向かって身を投げたのだった。

死ぬことに抵抗もなければ恐怖もない。

自分の躰がこの冷たい海に向かっているのを感じながら、紗綾は目を閉じた。

(次に生まれ変わることができるならば、幸せになりたい…。

両親がいて、兄弟姉妹がいて、恋人もいて…。

平和で、だけども幸せな人生を生きて行きたい…)

心の中で、紗綾は願った。
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