子爵は新妻を独り占めしたい

「わからないって、何も覚えていないのかい？」

彼は訳がわからないと言った様子で言い返した。

「私、死んだんじゃ…？」

なのに、生きているうえに見知らぬ場所にいると言うのはどう言うことなのだろうか？

そう思っていたら、
「何だかよくわからないけれど、命を粗末にするのはよくないと思うわ。

死んだなんてバカなことを言うのはやめなさい」

彼女が叱ってきた。

「はい、すみませんでした…」

叱られた紗綾は条件反射で謝っていた。

「それで、何も覚えていないのかい？

自分の名前は？」

そう聞いてきた彼に、
「竹山紗綾です」

紗綾は自分の名前を言った。

「サーヤね、どうやら自分のことはわかっているみたいだわ」

彼女はホッとしたように息を吐いた。