子爵は新妻を独り占めしたい
身に着けている服はもちろんのこと、髪の毛も濡れた様子はなかった。

海に身を投げたから全身が濡れているはずなのに、どうして濡れていないのだろうか?

何より、どうして自分は『マハリタ王国』と言う名前すら聞いたことがない国にいるのだろうか?

「どこかに宛てはあるの?」

エミリーが聞いてきた。

「宛て、ですか?」

そう聞き返した紗綾だったが、自分にはそう言うものはないと言うことに気づいた。

当然のことながら、自分は『マハリタ王国』に宛てはない。

だけども、自分がいた場所である日本にも居場所はない。

家族もいない、恋人には騙されたうえに借金を背負わされた。

お金を奪われて、仕事も家も追い出された自分に居場所なんてある訳がない。

そう思ったら、紗綾の目から涙がこぼれ落ちそうになった。
< 21 / 103 >

この作品をシェア

pagetop