子爵は新妻を独り占めしたい
「そんな日々を送っていたある日、私は1人の男性と出会いました。

その人はとても優しい人で、私の隣で私の夢を応援したいと言ってくれました。

家族を亡くして苦労して生きてきた者同士だったと言うこともあり、すぐに交際へと発展しました。

私はこの人と結婚して幸せになるんだと思ってました。

そう信じて疑いませんでした…なのに、彼は私をそんな風に思っていなかったんです」

自分の声が震えているのがわかった。

視界が歪んで見えるのは涙が出そうだからだと言うことに気づいた。

(泣いちゃダメだ…)

紗綾は自分に言い聞かせると、
「――彼は兄が大変なことになっていると言って、私からお金を騙し取るとすぐに姿を消しました」
と、唇を動かして言った。
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