子爵は新妻を独り占めしたい
「けど、それで君の気が晴れたならばいいけれど」

エリックはつけくわえるように言うと、
「明日、忘れるなよ」

ドアを開けると、部屋を後にしたのだった。

バタン…とドアが閉まったことを確認すると、紗綾は再びソファーに腰を下ろした。

「本当に、何だったんだ…?」

まるで台風みたいだと、紗綾は思った。

お互いのことを知るために話がしたいと言って部屋を訪ねてきて、流れに乗るように身の上話をすることになって、最後には出かける約束を交わすことになってしまった。

結局、エリックは何をするためにやってきたのだろうか?

本当にお互いのことを知るために話がしたかったのだろうか?

それは口実で、出かける約束をしたかったのだろうか?

そう思った紗綾だったが、気持ちがどこかすっきりとしていることに気づいた。
< 74 / 103 >

この作品をシェア

pagetop