子爵は新妻を独り占めしたい
家族もいない、友達もいない、恋人だと信じていた男には騙された。

元の世界に帰れたとしても、自分の手元に残っているのは多額の借金だけだ。

それらから逃げるために自分は命を捨てようとしたのだ。

「待ってくれる人もいなければ、心配してくれる人もいないか…」

紗綾は自嘲気味に呟くと、フフッと自嘲気味に笑った。

明日はエリックと一緒に出かける用事がある。

今日は明日に備えて早く寝ることにしよう。

そう決めると、紗綾はシャワールームへと足を向かわせた。

「ふうっ…」

湯船の中に躰を沈めたとたん、エリックに抱きしめられたことを思い出した。

「あれは、仕方がない…。

エリックさんだって、下心があってやったんじゃないって言ってるし」

紗綾は自分に言い聞かせるように呟いた。
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