子爵は新妻を独り占めしたい
田辺の心ここにあらずと言った様子は1週間経っても変わらなかった。

それどころか日が経つにつれて、思いつめたような顔をするようになった。

「拓海さん、本当に何があったの?」

そんな彼が心配で紗綾はもう1度声をかけた。

「いや、本当に何も…」

「私じゃ何もできないの?」

そう言った紗綾に田辺は躊躇していた。

「仕方ない…。

本当は、君を巻き込みたくないんだけど…」

田辺は仕方がないと言った様子で重い口を開いた。

「――兄が事故に遭ったんだ」

田辺が言った。

「えっ…?」

紗綾は何を言われたのかわからなかった。

「お兄さんが事故に遭ったって、どう言うことなの?

まさか…」

「兄は無事だった、ケガもしていない」

紗綾の言葉をさえぎるように、田辺は言った。
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