透明な檻の魚たち
「ねえ。高校生活って、水槽に似ていると思わない?」
私は唐突に切り出す。ずっと私が感じてきたことを、この、目の前の男の子に話してみたくなったのだ。
「高校生活が、水槽に?」
「そう。水槽って、透明で大きいでしょう。ライオンみたいに檻に入れられているわけじゃないし、犬みたいに鎖でつながれているわけでもない。一見、魚は不自由していないように見えるけれど、実は透明な檻に閉じ込められているのよ」
一条くんは真剣な眼差しで、じっと私の話を聞いている。
「本人たちは気付いていないけれど、少しの不自由さを伴っているところがね、水槽に入れられた魚に似ているなあって。生徒たちを見ていて、そう思ったのよ」
「……大人になったら、水槽から出られるんですか」
一条くんの瞳の色がいつもと違っていて、私は少しドキッとする。絵本を片手で持ち直し、私は考えて、その問いに答えた。
「人それぞれじゃないかな。リスクがあっても、自由を求めて海に出ていく人もいるし、自分で水槽を選んで、その中で暮らしていく人もいる。高校生と違うところは、自分で選択ができるって点だけかもしれないわね」
児童書が並んだ私の背丈より低い本棚が、急に迫ってきたように感じて、はっとする。いつの間にか、ここが学校の外の本屋であるということを忘れていた。まるで、いつものように図書室で話しているみたいだった。一条くんの声には、相手をリラックスさせる効果があるのだろうか。
私は唐突に切り出す。ずっと私が感じてきたことを、この、目の前の男の子に話してみたくなったのだ。
「高校生活が、水槽に?」
「そう。水槽って、透明で大きいでしょう。ライオンみたいに檻に入れられているわけじゃないし、犬みたいに鎖でつながれているわけでもない。一見、魚は不自由していないように見えるけれど、実は透明な檻に閉じ込められているのよ」
一条くんは真剣な眼差しで、じっと私の話を聞いている。
「本人たちは気付いていないけれど、少しの不自由さを伴っているところがね、水槽に入れられた魚に似ているなあって。生徒たちを見ていて、そう思ったのよ」
「……大人になったら、水槽から出られるんですか」
一条くんの瞳の色がいつもと違っていて、私は少しドキッとする。絵本を片手で持ち直し、私は考えて、その問いに答えた。
「人それぞれじゃないかな。リスクがあっても、自由を求めて海に出ていく人もいるし、自分で水槽を選んで、その中で暮らしていく人もいる。高校生と違うところは、自分で選択ができるって点だけかもしれないわね」
児童書が並んだ私の背丈より低い本棚が、急に迫ってきたように感じて、はっとする。いつの間にか、ここが学校の外の本屋であるということを忘れていた。まるで、いつものように図書室で話しているみたいだった。一条くんの声には、相手をリラックスさせる効果があるのだろうか。