透明な檻の魚たち
 こんなことを書いても、信じてもらえませんよね、きっと。僕が先生の立場でも、「思春期にありがちな年上への憧れ」とか言ってあしらうと思いますから。でも、そう思われることが僕にはとても苦しいんです。どうしてでしょうね。

 僕が先生に、先生も図書室の本を全部読もうとして、在学中にできなかったから司書になったのか、と訊いたとき、先生は驚いて目を丸くしていましたね。

 僕は先生から、私も在学中に同じことをしていた、と聞いたからそう思ったのではありません。

 先生はいつも、あいた時間に読書をしていますよね。カウンターに立っている間や、昼休みにお弁当を食べ終わったあと、司書室で。昼休みに図書室に行くこともたまにあったので、先生が司書室でお弁当を食べているのは知っていました。そんなとき、本の背表紙には必ず、学校の図書室のシールが貼ってありました。

 自分で持ってきた本ではなく、いつも図書室の本を読んでいる。しかも先生は、本棚に並んでいる順番で本を読んでいた。なんでわざわざそんなことをするんだろうと疑問に思いました。答えはひとつしかなかった。そのとき僕は、先生と僕は同じなんだと分かったんです。

 あなたのことが気になりだしたのは、それからのことでした。

 司書だよりをくまなく読むようになって、あなたの人柄が分かりました。あなたの本の感想はあたたかくて、本や物語に対する愛情に満ちていました。僕は司書だよりを通して、あなたに恋をしていたんです。
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