Rouge



そんな視線に更に見せつける様に、血に染まる掌を目の前にかざしてきた彼はさらりとした笑みで、

「手当してくんない?お礼に何か驕るから」

「………本当…面倒くさい」

面倒くさいと思う、絶対にもっと面倒くさい事になる。

そう頭では充分すぎる程理解していたのに、彼のそれこそ誘う様な性質の悪い笑みに敢えて誘われ身を戻したのは、

………どうでもいいからだ。






「……出血のわりに傷は浅そうね」

手当の為に場所を変え、改めて捉えた傷痕は縫うか縫わぬか迷う程度の浅さ。

ただ場所が場所だけにどうしても手を動かせば傷口が開きやすく血が止まりにくかったのだろう。

「舐めときゃ治るわよ」

「仮にも保健医がそんな迷信じみた処方口にしていいの?」

「不満があるならまともな医者に診断煽って縫うなりなんなりしてもらいなさい」

あくまでも私は保健医であって医者じゃない。

そもそも校区以外でこんな風に職を奉仕している事自体が稀な事で感謝してほしいくらいだ。

とりあえず自分が今出来る事など消毒液ぶっかけて包帯を巻く事くらいだと用意された救急箱の蓋をあけた。

それにしても……何にもなさげな空間であるのに救急箱の中だけは適度に種類が豊富だと感じる。


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