Rouge
ああ、でも笑っていたか。
自分の予想を肯定する様に、静かに外されたマスクの下では簡単に他者を魅了する笑みが展開。
それであるのに、外されきった素肌の片頬には【自分のものでない】鮮血の飛沫がアートの様に白を染める。
「相手に同情する」
「フッ、そんなにがっかりしないで」
「ねえ、人の話聞いてる?むしろ、日本語通じてる?」
「ルージュの分は…」
ダメだ。
全くもって通じてない。
最早無駄だと吐いた溜息は諦めの意思。
そんな私などまるで御構い無しである姿は言葉の続きを示すように、ポケットに突っ込んだままであった右手を満を持して私に差し出してくる。
その見事なる痛々しさと言ったら…。
「うわ……」
「お土産」
「有難迷惑極まりないわ」
なんて事ないようにニッコリと笑ってるけどさ、見てるこっちはパックリとしたその切り口や流血具合に眉を寄せる他反応しようがないんだけど。
どんな鋭利な刃物で切られたのか、それでも身につけていた手袋のおかげもあって出血多量なんて大袈裟さはない。
それでも痛々しい事には変わりないというのに、傷を負った本人は痛みなど微塵も顔に出す事なく手が汚れた程度の感覚に扱っている。