Rouge
「なーにしてるの?」
そんな響きが私の横に並び、吸っていた煙草を指先から攫い取っていく。
流れる煙の端を追って視線を動かせば、すでに自分の唇と同じ紅が付着した煙草は別の唇に口づけられていた。
まるで約束であった逢瀬の関係のよう。
そのやり取りは常日頃から為されていたかの様にサラリと展開した瞬間であったのだ。
私の方が一瞬早かったか。
捉えたのは闇を纏ったかの様な装いの横姿。
それでも直ぐ様静かにこちらに向けられた視線と顔の向き。
紫煙混じりに捉えた顔は確かに初対面とは言い難く、それでも知人とも言い難い。
それに記憶するものとは逸脱して感じる姿には半信半疑。
そんな思考に確信を与えたのは、
「こんな繁華街の中のホテル街付近で、誘う様に一人で煙草吹かして……補導しちゃいますよ?センセ」
ああ、やはり他人の空似ではなかった。
脅しのつもりなのか。
見覚えのある笑みとはかなり色を変えた妖しさと危うさと。
私の仕事上の立場を脅かす様な言葉の選別で反応を楽しむ様な姿を一瞥。
「それをそっくり返したら立場的に困るのはどっちなんだか。…白峯 雪乃(しらみね ゆきの)くん」
「補導してみる?」
「……面倒くさい。何が悲しくてプライベートに仕事持ち込まなきゃなのよ。違反行為は他所でして。私の視界に敢えて収まりに来るな。迷惑よ」
淡々と関わりを断つ様に言葉を弾き、タバコを回収。
それで去ってくれたら万事解決であったのだ。