国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
書庫は一階の東棟にあった。

ここへ来る途中、何人かの兵士や侍女とすれ違ったが、皆ミリアンに恭しく頭を垂れた。自分はいったい何者なのだろう。この城の人たちはミリアン自身が知らないことを知っているようで異様だった。

長い廊下の突き当りの部屋が書庫だと教えられ、ミリアンが扉を開く。

書庫の中は薄暗く、本が直接日差しで痛まないように壁の高い位置に大きなアーチ窓があった。かろうじて陽の光は入ってくるが、隅の方は暗くて足元がおぼつかない。本のある部屋だから松明も置かれていなかった。冷たい空気とともにほんのりかび臭い。「すみません」と声をかけても自分の声が反響するだけで返事はない。どうやら誰もいないようだ。

歩くたびにコツリと足音が響き、マリーアは“薄気味悪いところだ”と言っていたが、ミリアンにとっては静かで落ち着ける場所に思えた。木製の書架が数十架以上並び、マリーアが言っていたようにほとんどが植物について書き記してあるものだったが、中には武器の扱い方や戦術などについての本もあった。一日いても誰も足を踏み入れなさそうなところなのに、よく見ると本には埃ひとつついていない。侍女か誰かが毎日掃除をしているという証拠だ。
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