国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「君、そんなこと言って隠してるつもりか? 気が付いているんだろう? ミリアンが亡国ソルマンテの“唄人”であることに……しかも純血のね」

レイの眉間が険しさを増す。いつだってこの男の口調は自分をいらだたせる。しかし、そんなことで揺すぶられては、まだまだ精神的に未熟だとレイは思い知らされた。

「あの娘には手を出すな」

「まぁ、今はその時期じゃないから今回はおとなしく引き下がるけどね。レイ、僕をあまり見くびらないでくれよ? じゃあ、また会おう」

そういうと、ジェイスは踵を返して小屋を後にした。

「……くそ、あの娘は私の物だ、誰にも渡さない」

そんな胸の内が思わず声に出てしまう。

「レイ様、そろそろ夜が明けます」

見ると、東の空がほんの少しずつ白んでいるのが見えた。
早朝のラタニア王都は商売人にとってせわしなく準備に追われる時間帯だ。人通りも多くなる。一国の王としてあまり人前で目立つことはしたくない、セルゲイに城へ戻るように促されると、もう誰もいなくなった小屋を出た。
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