国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
切れ長の瞳の中で鋭く虹彩が光り、線の細い輪郭に筋の通った鼻梁と薄くキリッと結ばれた唇、精悍さが優る完璧な顔立ちをしているのに、ニコリともしない無愛想さが近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。男ではあるが中性的な面持ちとは逆に、頑丈そうな長い四肢と鍛え抜かれた身体はミリアンを圧倒した。

「あ……」

あなたは?と問おうとしても声にならない。しばらく互いの間に沈黙が続いたその時。

「こっちだ!」

じっと佇む男の背後から声がして、誰かがこちらへ向かってくる気配を感じた。近づいてくる足音はひとりではない。

ここにいては危険だ。物取りの仲間が来たに違いない。

ミリアンは握ったままの短剣を腰の鞘にさっと収めると、その場から逃げ出そうと地面を蹴った。すると。

「お前とは、またいずれ会うことになるだろうな」

フードの男が去り際に、ミリアンの背中にそう言葉を投げかけた。ビクリと肩を震わせ思わず立ち止まってしまいそうになったが、その恐怖を払って振り向くこともなくもつれる足で大通りを駆け抜けた。
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