国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
裂かれたフードを鬱陶しそうに頭を振って払い、男はミリアンが消えていった方向をじっと見つめ、ニヤリと口角を上げた。

「あぁ、ご無事でしたか! いきなり姿が見えなくなって探しましたぞ」

「セルゲイか」

数人の兵士を引き連れ、駆けつけたセルゲイと呼ばれた男が息を切らせて言った。

「単独で行動するのは謹んでください、夜の王都は――」

勢いづいた言葉は、ギロリと睨まれたその漆黒の瞳によって留まる。これ以上、口うるさく言うなと、無言の圧力をかけられているのだ。セルゲイがそう悟ると憮然とため息をついた。しかし、目の前の彼が無事だったことに、鼻と顎の下に茶がかった短い髭を生やした顔が安堵に変わる。

「しかしながら、そのような軽装では危険ですぞ」

夜の王都を警らするのに必要最低限の装備をしているセルゲイは、民間人とは違う雰囲気を醸し出していた。肩からマントを垂らし、鎖かたびらの上からサーコートを身に纏って、腰には剣を携えている。

それに比べて男は剣以外の装備を身につけず、黒革の長いブーツにズボンを入れ込んで、シャツの上から厚手の上着にフードマントを羽織っただけという格好をしている。
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