国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「追い詰めた女はどうされましたか?」

「思わぬ邪魔が入って逃げられた。まだそう遠くに行ってないはずだ。お前たち、探せ」

「はっ!」

男が凛然と命令を下すと、武装した兵士が背筋を伸ばしそれぞれ散っていった。

「邪魔が入ったとは、一体なにがあったのですか?」

邪魔が入ったからといって、彼に追い詰められて逃げ失せられた者はいない。セルゲイは意外に思ったが、彼の口元に異様な笑みが浮かんでいるのに気づいて口をつぐんだ。

「あの女……」

「……は?」

ためらいもせずに剣を振るってきた女。目も覚めるような美しい出で立ちからは想像もできないくらいの機敏な剣さばきだった。月光に反射した金の髪、そして自分に向けられた憎悪を孕んだ瞳は、翡翠のような蒼色のような不思議な色をしていた。金の髪を持つ女はこのラタニアでは滅多に見ない。見たことすらない者も多いはずだ。だから返って目立つ。

彼女とはまた近いうちに会うような予感がした。

「なかなか剣筋は悪くなかったな……」

「失礼ですが、さきほどから何をおっしゃっているのですか?」

忍び笑う男に怪訝な視線を向け、セルゲイは何を考えているかわからない主に閉口した。
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