国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
終章 憎しみの果てに
真っ暗な闇が、大きく口を開けていた。冷たく、身動きもできない。しかし、不思議と恐怖は感じなかった。全身を暖かなものに包まれて、必死にそれにしがみついた。

ミリアンは夢を見ていた。もしくは脳裏に映し出された幻影か。流れるような美しい金の髪をした色白の女性が、凛々しく端正な顔立ちをした男性と楽しげに笑っている。見知らぬふたりだったが、ひどく懐かしさを覚えた。

あれは、誰――?

その男性は高貴な軍服を身にまとい、ひと目で位の高さが窺えた。どことなく、彼に似ている。そう思った時、その男性が優しい眼差しを向けて、対峙する女性の首に何かをかけるように腕を回した。それは、銀の十字に竜が絡みついているロザリオ。受け取った女性は嬉しそうに微笑み、そしてふたりは切なげに歌を唄いだした。


――たとえ運命がふたりを裂こうとも、我は生涯そなたを守り続けるだろう。
――たとえこの想いが貫けなくとも、私は生涯あなたを愛し続けるでしょう。
――決して案ずることなかれ、天竜の加護を与えたもう。

あの人は、私の――。

ミリアンは夢の中で必死に口を動かして彼女を呼んだ。すると、その女性はまるで呼びかけに応えるかのようにゆっくりとこちらに視線を向けた――。
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