国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい

燃え尽きた柱が炎の尾を引きながら、ミリアンの真横に崩れ落ちてきた。その瞬間、首筋に大きな火の塊が飛んできて、ヒリッとした痛みが走る。

「お母さん！」
倒れている母の元へ行かなければ……。そう思うと、火傷を負った痛みなど今はどうでもよかった。そして、駆け出そうとしたその時。

「ミリアン！　無事か!?」

裏口から村人の男が数人、ミリアンを救出するためになだれこんできた。見るとどの人も顔見知りの村の人たちで、ミリアンは安堵して言った。

「お母さんを助けて！　あそこで倒れているの！　きっと怪我をして――ッ」

すがるように村人の男の袖を引っ張りながらもう一度、倒れている母に向き直ると、ミリアンは言葉を呑んだ。
ミリアンが見たもの。それは黒いフードを目深に被り、熱風に煽られるマント。陽炎のように揺れるひとつの人影が、母の傍らにゆらりと立っていた。先程まではそんな人影はなかったのに。