国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「わ、私は……」

いったいなにを言おうとしているのかさえわからなかった。するとレイの冷たい指先がミリアンの頬に触れ、そっとその輪郭をなぞった。

「国王陛下、あの……んっ」

言葉にならない言葉を発しようとしたその時、ミリアンの唇にレイのそれが重なった。あまりにも唐突すぎて目を見開いたまま動けなくなる。レイの唇からはなんの感情も熱も感じられない。ただ唇を重ねるという行為だけだった。まるで所有される契約のように。

初めて体験する感覚に恐怖が湧き上がり、息苦しさを感じ始めると同時に唇がそっと離れていった。そして酸素を渇望する肺に思い切り息を吸い込むと、ゲホゲホと咳き込んでしまった。

「国王陛下ではなく、レイでいい。堅苦しいのは嫌いだ」

「レイ……様」

ぼんやりする頭で、ミリアンはその名を口にする。

「立て」

冷淡にそう言われて、ミリアンはのろのろと立ち上がった。今にもふらりと身体がよろけそうになる。

「お前は私の物だ」

それはまるで呪文のようだった。

耳朶に触れるか触れないかの距離でレイにそう囁かれると、ミリアンは深い深い底なしの沼に沈んでいくような気がした。
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