国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「そうビクビクするな」

(そう言われても、今度は何をされるか……)

顔が固まってニコリともできない自分はさぞ無愛想だろう。元より愛想を振りまくつもりもないが。

「お前に尋ねたいことがある」

腰に巻き付いた長い腰布を揺らし、レイが口を開いた。

「はい。なんでしょう?」

「お前が牢屋で唄っていた歌、あれはなんという歌だ?」

(やっぱり! あの人影はレイ様だったんだわ)

レイに尋ねられて確信すると、ミリアンは答えに戸惑った。なぜなら、あの歌は母とふたりだけの秘密の歌だったからだ。恐怖に駆られて安易に口ずさんでしまったことをいまさら後悔する。

「あ、あの歌は……学校で習ったんです」

「嘘だな」

咄嗟に思いついた嘘をあっさりと見破られてしまい、ミリアンは言葉に詰まる。

「お前は五歳から孤児としてローデン教会に住んでいた」

「はい……」

「ならば、学校で教育など受けてはいないはずだ」

ラタニア王国では、ほとんどの学校は貴族たちが私立で運営しているため、学費の払えない親無しの子どもは学校には通えない。代わりに国の援助を受けている教会で、子どもたちはみなそれぞれ独学で勉強をしている。
< 79 / 295 >

この作品をシェア

pagetop