たとえ君が世界を嫌っても。
やがて、彼女がゆっくりと手を掲げた。自然と目がその動きを追う。

細い手の先には、古びたカメラが握られている。色は当然のごとく白。
レンズの向けられた先には、前屈みで座る俺がいる。
 
カシャッと軽い音がして、彼女が俺を含めた長方形の世界を切り取った。
そのまま何度か無造作にシャッター音を鳴らし、一瞬を残していく。


 何もかもが制限された世界で、彼女にとって唯一の自由が「写真を撮る」という行為だった。

そして彼女は俺しか撮らない。

 ファインダーから顔を上げた彼女が、不服そうな顔を向けてきた。
 どうやらお姫様は、もっとモデルが動くことをご所望らしい


 俺は、彼女がしっかり興味を向けてくれるのが嬉しくて少しニヤつきながらも立ち上がった。

 無駄に広い部屋を、気の赴くままに歩く。その動きを追って、カメラが何度も瞬きをした。
 この部屋に来た時の恒例行事みたいなものだから、互いに慣れたものだ。
 
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