たとえ君が世界を嫌っても。
 雨は、先程より少しだけ強まっていたが、まだ窓を叩く音は優しい。

 彼女が窓を伝う雫に手を伸ばした。

 失恋の涙にも似た静かなそれは、しかしさわれないままガラス越しに落ちていくだけだ。
 
 俺たちがしているのも、きっとそんな恋だろう。
 姿は見えるし声も聞こえる。だけど触れ合えない、ガラス越しの恋。綺麗だが、同時にものすごく残酷だ。

「そろそろ帰るよ。」

 また曇天を見上げ始めた彼女に、声をかける。
 返事はないが、聞こえているはずなので気にせずに身支度を整える。

ソファの背に掛けていた上着に腕を通したとき、自分の左手に輝く銀色が目に入った。

 左手薬指の、シンプルな指輪。

 俺の指にあり、彼女の指にないそれが示すことを、俺はずっと認められずにいた。

 「アイツ」の周りにいるのは、「アイツ」自身が縛り付けた人間だ。つまりは、家で目さえ合わせてくれない書類上の妻も同じなのだろう。
 
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