極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
「あの、可読性のない、酷い引き継ぎ資料のことか?」

「こいつにしか解けない暗号を残してやったんだ。おかげで成長しただろ?」

神崎さんがニッと不敵な笑みを浮かべて私を見つめた。

あの誰にも理解できない無茶苦茶な引き継ぎ資料は、やはりそういう裏があったのか。

あえて酷い資料を残して自分が姿を消すことで、私に仕事が回るように仕組んだ。

そのせいで私がどれだけ苦労をしたか、熱弁してやりたいところだが、おかげで成長したのは間違いない。

結局、全部神崎さんの思惑通り。

複雑な顔の私に、彼はふっと瞳を細くして、自嘲する。

「咲島には、俺の在任中、補佐ばっかりで、たいしたチャンスも与えてやれなかったからな。せめてもの罪滅ぼしだ」

そんなことに罪悪感を感じていたの? 私は、彼の下で仕事が出来るだけで充分満足だったのに……。

胸の奥を詰まらせ、膝の上の手をきゅっと握った。
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