極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
辺りに誰もいなくなったことで緊張も解け、私はだらしなくデスクに突っ伏した。

頬をデスクの上につけたまま、彼の作った資料をペラペラとめくる。

――神崎さんの、文章だなぁ……
 
一文が短く簡潔で合理的。矢印や行頭文字を多用しているのが彼らしい。

パソコンで打ち込まれただけのただの文字の並びなのに、彼の温もりを感じて愛おしいとすら思う。

半年待てと言われたものの、まだ別れて一週間、当然のことながら、連絡のひとつももらえていない。

「確かに、待つって言ったけど……」

メールの一本くらいくれてもいいんじゃないかと思う。

『元気か?』とか『仕事は大丈夫か?』とか、ちょっとくらい気にかけてくれても……。

ちなみに、私も彼のメールアドレスを知っているが、待っていろと言われただけに、自分からメールするのをためらっている。

「神崎さんの、バカ……」

静かなオフィスに、ぽつりと彼の悪口をこぼす。

もちろん返答などない――と思いきや。
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