極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
「別に、俺は全然熱くなかったんだって、コーヒー。スーツにかかっただけだし、怪我だってしてないし、クリーニング代は経費だし」

「そういう問題じゃ、ないんです……」

「ああいう人間性欠如したようなヤツ、この世にはわんさかいるぞ。この会社を辞めたからって、解決するような問題じゃない。真面目に向き合う方がバカげてる。忘れろ。ハズレくじを引いただけだ」

「でも……私……」

あの日のことを思い出しただけで、震えてしまうのだ、情けないことに。

「……怖くなったか? 仕事が」

歯を食いしばってコクリと頷いた。

こんな私を守るために、神崎さんは身をていしてくれたのに。なのに私ったら、なんて不甲斐ない……。

涙がぽつぽつと落ちてきて、スカートの上にシミを作る。

ああ、情けない。また、こんなところで泣いて。

神崎さんは、私の姿に呆れたのだろうか、会議卓の上に肘をついて、ふぅ、とため息をこぼした。

丸二年、それなりに時間と手間をかけて育ててきた部下が、あっさり辞めたいと言い出したのだ。

ため息をつきたくもなるだろう。
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