極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
「あ、ありがとうございます。押してくれて」

「どうして押したか、わかるか?」

「へ?」

いや、正直言って、全然わからない。

せっかくなら、仕事をバリバリしてくれそうな優秀な子を選べばいいのに。なぜ私?

「まさか、領収書清算をしてもらいたいがため、じゃないですよね?」

「アホか」

額に手を当て、神崎さんがうなだれた。

深いため息の後、あらたまった表情で私を睨む。

「人には人の役割がある。似たようなヤツが集まったって、会社は回らない。お前は潤滑油なんだ。ゴリゴリ成績を上げてくれなくていい。マイペースに、自分の役割を果たしてくれれば、勝手に周りも影響を受けて、全体がうまいこと回ってくれる」

組織論、だろうか。真面目な顔で語りだした神崎さんの話に、うん、うん、と頷いて相槌を打つ。

「それに……お前の言ってた十年後にも期待しているしな」

十年後……?

私が首を傾げると「なんだ、それも忘れたのか?」と神崎さんは呆れた声を漏らした。

「私、なにか言ってましたか?」

「覚えていないならいい。とにかく、お前が番狂わせを起こしてくれることを俺は期待してたってことだ」

それだけ言い終えた後、おもむろに立ち上がりパイプ椅子をしまう。
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