はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
寝込んでいる私を、付きっきりで看病したのは父だった。



「婚約者ですし、お嬢さんの看病は私が…。」



「お祖父様に付いている君が、若菜ちゃんを看病するのはどうかな?

お祖父様には、インフルエンザをうつすわけにはいかないからね。」



そうやって書生の言葉を退けた父は、私にはこう言った。



「若菜ちゃん、彼には気をつけなさい。

既成事実が作られてしまったら、結婚を拒むことはできなくなる。」



「結婚には、反対なの?」



「私の立場で、言えることじゃないよ。」



父は悲しそうな顔をすると、私の部屋を出た。



その言葉を聞いて、嬉しさと怒りが混じり合う。



結婚には反対という父の本心が聞けたことは嬉しいけど、それを表沙汰にしない態度にはイライラした。



それから1週間ほど外出を止められていた私は、やっと学校に行けるまでに回復した。



その間に3年の送別会があって、ステージパフォーマンスを披露する予定だったけど、どうなったかは知らない。



坂下のいない部活なんてやる気ないから、どうでもいいし。



とりあえず、卒業式には間に合ったので安心した。



今年は、送辞を頼まれてる。



朝早くに家を出て向かった先は、坂下の病院。



学校が始まるまで、まだ間がある。



桜の木の下で、坂下の病室を見上げる。



部屋には相変わらず、カーテンがかかっていた。



ここに来てすぐ、病院の玄関が開いたので視線を移すと…。



目を赤くした蒼と、蒼に支えられるようにして歩くアンジェ先輩が出てきた。



2人とも私に気づくことなく目の前を通り過ぎると、蒼の車に乗って去っていった。



そんな2人を見て、凄く嫌な予感がした…。






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