はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
私は、病院の中に足を踏み入れた。



面会時間を外れているから、黙って病棟内を歩き回るのは…どうかと思う。



受付で尋ねてみようと向かう途中、自販機のあたりで話し声が聞こえた。



「院長、コーヒーでしたらお淹れしましょうか?」



「いや…、いいよ。」



院長と呼ばれた男は申し出を断ると、自販機のボタンを押した。



ガコン!



静寂の中、缶コーヒーが取出口に排出される音が響いた。



院長は缶コーヒーを手にすると壁に凭れ、それを口にした。



私の目には、憔悴しきっているように見えた。



坂下のことを聞きに来たんだから、さっさと聞いてしまえば良いのに…。



どう切り出したら良いのか分からず、その場で立ち尽くしたまま戸惑ってる自分がいた。



コーヒーを飲み終えたのか、向こうが私に気づいて声をかけてきた。



「カズの学校のコか…。」



彼は、坂下の友達なのだろうか?



坂下のことをヒトシでなく、カズと呼んだ。



「カズに会いに来たんだろう?」



その言葉に、私は頷く。



すると、着いて来いと言わんばかりに手招きをして、院長は歩き始めた。



病室は上の階にあるはずなのに、階段を降りていく。



薄暗い廊下を進むと、ある一室の前で止まった。



院長が、ドアを開ける。



その中には、人と思われる物体が寝かされていた。



顔と思われる部分に白い布がかけられているから、はっきりしたことは言えない。



分かっていることは、私の目の前にあるのは死体だということだ。



坂下に会いに来た私を、ここに連れてきたということは…。



私はその事実を認めたくなくて、院長が顔の布に手を伸ばした瞬間、踵を返して走り去った。



“パパ”が…



大好きだった坂下が



死んだ…!?








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