はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
「謝るって、何を?」



「僕は坂下先生が危篤だと聞いて、アンジェを連れて行った。

アンジェは坂下先生の恋人だから、連れて行って当然だと思ってたしな。」



「それ、別に謝ることじゃ無いじゃん。

間違ってるなんて、思わないし…。」



逆に、私を連れて行ったら、アンジェ先輩はメチャメチャ怒ると思うけど…。



「だけど、坂下先生が最期になって本当に逢いたがってたのは…。

桐生、お前だった。」



…私?



私は、アンジェ先輩のような『恋人』でも、和歌ちゃんみたいに『娘』でもない。



なのに、なぜ坂下は私に会いたいなんて言ったんだろう?



「坂下先生はな、桐生を連れて来てないことを知って

『手紙を書けば良かった』

って、後悔してた。」



坂下は、私に伝えたいことがあったの?



だったら、それを知りたい。



「先生、何か言ってた?」



坂下が言いたかったことを、蒼が聞いていると思って話を振った。



蒼は、頭を横に振る。



「ゴメン、僕は聞いてないんだ。」



「そっか…。」



「本当に済まない。」



蒼が、頭を下げた。



「頭、上げてよ。

もう済んだことだし…。」



私はそう言うと、その場を後にした。



結局、私の願いは叶わなかったというのに…。



坂下が私に会いたいと思ってくれていたのを、知っただけだというのに…。



嬉しいと、思った。






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